読了『会社を綴る人』朱野帰子

「どんなにつまんない取り柄でも一つでもあれば、会社でやっていけるもんだ」

 

 そんな兄の言葉に押されて、主人公の男性、「紙屋(かみや)」は30代にして初めて派遣社員から製粉会社の正社員になった。

 彼は転職エージェントから紹介されていた製粉会社の社史を手に入れたが、それがとても面白く、履歴書へその熱い思いをしたためると、見事書類選考を通過。

 その後、社内で同僚に煙たがられながらも、社内メール、営業提案、議事録、社長スピーチとどんどんレベルを上げていく。ただし、他のことはからっきしなのだが・・・。

 通常「仕事」と言われる事務作業や電話応対にも困る始末だが、文章に対してだけは、一芸に秀でていた「紙屋」。最後は反目してきた女性同僚との進展を期待させつつ、話は終わっている。

 

ネタばれと感想

 いわゆる仕事ができない人のお話なんだけれども、本人がいじけつつも、変に性格がこじれていないので、読みやすい。また、上司や同僚のため、うそをつきたくないと筋を通す姿に、心打たれる。最後に仕事を辞めてしまうんだが、人間関係は継続しているようだし、今後、文章にかかわる仕事に進むのではないかと期待させてくれた。

 

本を選んだ理由とお勧めの訳

 タイトルの「会社を綴る」に惹かれて手に取った。また表紙もあっさりとしてよい。自分が休職中なのもあって、仕事について考える系統の本を手に取ってしまったのかも。主人公の家族も温かいし、同僚も全体的に「悪」と言える人がおらず、猫にさえ配慮が行き届いている。安心して読めると思う。